こんにちは。前回は、直接材・間接材、消耗品、サービス調達を、完成品との関係、物品かサービスか、在庫として管理するかという別々の観点から分類しました。
今回は、どの調達対象にも共通する基本の文書・記録、すなわち 購買依頼(PR)、発注書(PO)、入庫(GR)、仕入先請求書を区別します。重要なのは順番を暗記することではなく、各文書が「誰に対して、何を証明し、次にどんな判断を可能にするか」を説明できることです。これは日本の SAP MM プロジェクトで業務フローを確認するときの基礎語彙になります。学習目安は 35〜45 分です。
1. 四つの記録は、それぞれ別の問いに答える
物品を通常の在庫品として調達する場合、P2P の中心には次の四つの記録があります。
| 文書・記録 | English | 日本語での業務上の目的 | 中心となる問い |
|---|---|---|---|
| PR | Purchase Requisition | 社内で「これを調達してほしい」と必要性を伝える | 何が必要か |
| PO | Purchase Order | 仕入先へ正式に注文する | 何を、どの条件で注文したか |
| GR | Goods Receipt | 実際に届いた物品を確認し、受領を記録する | 何を実際に受け取ったか |
| Supplier Invoice | 仕入先請求書 | 仕入先が代金を請求する | 仕入先は何に対して、いくら請求しているか |
この四つは似た情報を持ちます。たとえば、いずれにも品目や数量が現れることがあります。しかし、情報の意味と発行者が異なるため、互いに代用できません。
- PR があっても、仕入先に対して注文したことにはなりません。
- PO があっても、物品が実際に到着した証拠にはなりません。
- GR があっても、請求価格が正しいとは限りません。
- 請求書があっても、会社がその物品を受領したとは限りません。
「SAP 調達プロセスの帳票フロー」図では、MRP または社内の必要から購買依頼、購買発注、入庫、請求書照合へ進む物品調達の流れと、各段階の代表的な日本語名称・クラシック SAP GUI のトランザクションコードが示されています。

図にある ME51N、ME21N、MIGO、MIRO はクラシック SAP GUI でよく使われる代表例です。S/4HANA では Fiori アプリで同じ業務を行うことも多いため、今は画面操作よりも、文書の役割を優先して理解しましょう。
まず、日本語で四段階を通して聞いてみましょう。
ERPチャンネル - ITシステムをより身近に の「【SAP MM】1回目 SAP MMモジュールの概要説明①」は、購買依頼から請求書照合までを日本語の実務用語で簡潔に説明します。各文書を担当部門の行為として捉えてください。
四つの基本段階を視聴します。特に、「購買依頼」は他部門から購買部門への依頼、「発注」は購買部門から仕入先への注文であるという宛先の違いに注意してください。入庫では会社側が受領を登録し、請求書照合では発注・入庫・請求の内容を確認する、という役割の分担を聞き取ります。
2. PR と PO:社内の要求と、社外への注文を混同しない
最も重要な区別は、購買依頼と発注書の違いです。どちらも「何を何個必要か」を含み得ますが、相手が違います。
購買依頼(PR):社内の調達要求
**購買依頼(Purchase Requisition, PR/購買依頼書)**は、必要な物品またはサービスについて、会社の内部で調達を求める文書です。
依頼者は、たとえば次のような情報を示します。
- 必要な品目またはサービス
- 必要数量
- 希望納入日
- 納入先となる工場・部門
- 使用目的、費用負担先
- 必要に応じて仕様や希望仕入先
生産計画、設備保全、総務、IT、人事などの部門が PR を起票することがあります。前回学んだ消耗品なら、総務部が会議用備品を求める PR を作成する、と考えられます。また、製造用部品については、将来学ぶ MRP が必要量をもとに PR を自動作成する場合もあります。
ただし、PR の本質は同じです。
PR は「この会社にはこの調達ニーズがある」という内部の意思表示である。
PR に仕入先候補が記載されることはありますが、それ自体は仕入先への注文ではありません。承認、仕入先選定、価格・納期などの検討を経て、後続の PO につながります。
発注書(PO):仕入先への正式な注文
**発注書(Purchase Order, PO)**は、会社が選定した仕入先に対して、物品またはサービスを正式に注文する文書です。日本語の会話では、文書を「発注書」、行為を「発注」と呼び分けると自然です。
PO の典型的な内容は次のとおりです。
- 仕入先
- 発注品目・数量
- 単価、通貨、値引きなどの価格条件
- 納入先
- 納期
- 支払条件
- 品質・検収・返品などに関する条件
PO は「この条件で、貴社から購入します」という社外に向けた正式な注文である。
仕入先は PO の内容を基に、物品の出荷やサービスの提供を準備します。法的な契約上の扱いは会社の取引条件や国・契約形態で異なりますが、業務上、PO は社内の単なる希望ではなく、仕入先との取引を具体化する重要な文書です。
SAP Learning の公式教材で、PR の後にソーシングと PO 作成が続くことを確認しましょう。
Carrying out Requisitioning Solution Process Steps
SAP Learning のこの教材は、S/4HANA の購買依頼プロセスを、依頼・発注・受領・請求書処理という役割分担で整理しています。画面名を暗記するより、PR が「requirement」、PO が「ordering」に対応することを確かめましょう。
「Requisitioning Solution Process Steps」の「Self-Service Procurement」を読み、依頼者向けの説明の後にある「Essential Process Steps」表を確認してください。表では、Requirement の PR 作成と Ordering の PO 作成の担当者が区別されています。 続いて「What Happens After the Requisition Is Created?」を探してください。冒頭の「Once a purchase requisition is created and approved」から、購買依頼に仕入先を割り当て、PO・RFQ・契約などの後続文書を作成する説明までを読みます。PR は購買活動を開始させる内部文書であり、PO はその後の調達判断の結果として作成される文書だと整理してください。
一言で区別するなら
顧客に説明するときは、次の対比が使えます。
購買依頼は社内の調達要求です。発注書は仕入先に対する正式な注文です。
英語なら、次のように表現できます。
“A purchase requisition is an internal request to procure goods or services. A purchase order is the formal order issued to a supplier.”
なお、必ずしもすべての PO が PR から作成されるわけではありません。会社の購買ルールや購買対象によっては、購買担当者が直接 PO を作成することもあります。それでも、PR と PO の業務目的の違いは変わりません。
3. GR:納品された事実を、会社側が受領として記録する
仕入先が物品を届ける行為は、通常 納品(delivery) と呼ばれます。一方、会社側が実際の到着を確認し、SAP に記録する行為が 入庫(Goods Receipt, GR/入庫計上) です。
ここでも、外部の事実と内部の記録を区別することが大切です。
- 納品書:仕入先が「この物品を納品した」と示す書類
- 入庫(GR):会社が「この物品を受け取った」と確認して記録する処理
- 入出庫伝票・マテリアル伝票:入庫計上によって SAP 内で生成される記録
入庫担当者や倉庫担当者は、基本的に PO と現物を比較します。確認対象には、少なくとも次のようなものがあります。
- 品目が正しいか
- 数量が正しいか
- 納入先が正しいか
- 外観上の破損など、受領時点で確認できる問題がないか
品質検査を厳密に行う業務では、入庫後に品質検査や使用可否の判断が別途必要になる場合があります。しかし、GR の基本目的は、まず物品が会社に到着し、どの数量を受領したかを正しく記録することです。
「部門・仕入先を含む購買処理フロー」図では、社内の人事・生産・IT などの部門が購買依頼を出し、購買部門が発注し、仕入先からの納品後に社内で入庫・請求書照合・支払を行うという担当間の受け渡しが描かれています。

入庫は、単に倉庫の作業記録ではありません。標準的な在庫品の調達では、在庫数量を更新し、後の請求書照合で「請求された数量は本当に受け取った数量か」を確認する根拠にもなります。会計への具体的な影響は後のモジュールで扱いますが、今は GR を 受領事実を確定する統制点 と捉えてください。
4. 仕入先請求書:支払依頼を検証し、支払可能な債務にする
仕入先請求書(Supplier Invoice) は、仕入先が会社に対して送る代金請求です。一般に、仕入先は納品または契約上のサービス提供に基づき、「この数量・単価・税額に対して支払ってください」と請求します。
ただし、請求書を受け取っただけで直ちに支払うのではありません。会社は 請求書照合(Invoice Verification) を行い、請求内容が正しいか確認します。
標準的な物品調達では、次の三つを照合します。
| 照合する記録 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| PO | 発注した品目、価格条件、発注数量、支払条件 |
| GR | 実際に受領した品目・数量 |
| 仕入先請求書 | 仕入先が請求している数量、金額、税額 |
この確認を 3-way match(3 ウェイマッチング/三点照合) と呼びます。
- PO と請求書を比べ、価格や条件が合っているかを確認する。
- GR と請求書を比べ、請求数量が実際の受領数量を超えていないかを確認する。
- 差異が許容範囲内かを判断する。
SAP Learning の説明を読んで、GR と請求書照合がどのように結び付くかを確認します。
Carrying out Requisitioning Solution Process Steps
同じ SAP Learning 教材の後半では、GR を物理的な到着の確認として説明し、仕入先請求書を PO と GR に照合して処理する流れを示しています。ここでは、請求書そのものと「請求書を検証・転記する業務」を分けて読みましょう。
「Post Goods Receipt for Purchasing Documents」の段落で、入庫の目的を読みます。GR は PO の後、請求書の前に位置する、実物の到着を確認する記録です。 次に「Create Supplier Invoice」の説明を探し、請求書照合の説明を最後まで読んでください。PO match、GR match、tolerance check の三つが、それぞれ何を防ぐための確認かを押さえます。
請求書、請求書照合、支払は別のもの
実務では、この三つの言葉を混同しないようにしましょう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 仕入先請求書 | 仕入先が送付する支払請求の文書 |
| 請求書照合・請求書検証 | PO・GR・請求書を比較し、正当性を確認する社内業務 |
| 支払 | 承認済みの請求に対して、実際に資金を仕入先へ送る処理 |
差異が大きい場合、SAP では請求書を支払保留にする運用があります。たとえば PO の単価が 1,000 円なのに、請求書が 1,250 円だった場合、担当者は価格差の理由を確認する必要があります。これは「仕入先に支払わない」という即時の結論ではなく、根拠を確認してから支払判断を行うための統制です。
5. 一つのケースで四つの目的を追う
空気清浄機メーカーが、製品に組み込むモーターを 100 個調達するケースを考えます。モーターは前回の分類では、通常は直接材かつ在庫品です。
-
PR:必要性を社内へ伝える
生産部門または MRP は、「来月の生産にモーター 100 個が必要」として PR を作成します。この時点での中心事実は、会社内部の需要です。まだ仕入先には注文していません。 -
PO:注文条件を確定して仕入先へ伝える
購買担当者は仕入先 A を選定し、100 個、単価、納期、納入工場などを含む PO を発行します。この時点で確定するのは、会社が仕入先に依頼した注文内容です。 -
GR:実際の受領を記録する
倉庫にはモーターが 95 個しか到着しなかったとします。倉庫担当者は確認した実受領数量で GR を記録します。PO が 100 個であっても、GR に 100 個と登録してはいけません。GR は注文の予定ではなく、実際の受領事実を表すからです。 -
仕入先請求書:請求額を検証する
仕入先が 100 個分を請求した場合、請求書照合で PO の 100 個と GR の 95 個に差があることが分かります。経理・購買は不足分が後日納品されるのか、請求が誤っているのかを確認します。
このように、四つの記録は同じ取引を見ていますが、示している事実が違います。
| 文書・記録 | このケースで示す事実 |
|---|---|
| PR | モーター 100 個が必要である |
| PO | 仕入先 A にモーター 100 個をこの条件で注文した |
| GR | モーター 95 個を実際に受領した |
| 仕入先請求書 | 仕入先 A が代金を請求している |
日本語での説明テンプレート
顧客や面接で、まずは次の四文を正確に言えるようにしましょう。
購買依頼は、必要な品目やサービスを調達してほしいという社内の要求です。
発注書は、数量・価格・納期などの条件を示して仕入先へ出す正式な注文書です。
入庫は、発注した物品が実際に到着したことを確認し、受領数量を SAP に記録する処理です。
仕入先請求書は支払請求であり、請求書照合では発注書と入庫実績を基に、その内容を確認します。
特に、次の対比は自然で重要です。
- 購買依頼は社内向け、発注書は社外向けです。
- 納品は仕入先の行為、入庫は会社側の受領記録です。
- 請求書照合と支払は別の業務です。
まとめ
今回の要点は、四つの文書・記録が担う異なる役割です。
- PR(購買依頼)は、必要な物品・サービスを調達してほしいという内部要求です。
- PO(発注書)は、仕入先に対して条件を示す正式な注文です。
- GR(入庫)は、物品の実際の到着・受領を確認し、数量を記録する受領実績です。
- 仕入先請求書は仕入先の支払請求であり、請求書照合では PO・GR・請求書の整合性を確認します。
- この照合が、誤請求、過剰支払、未受領品への支払を防ぐ統制になります。
次回は、この一連の調達を例に、SAP で扱う情報を 組織データ、マスタデータ、設定データ、トランザクションデータ に分類します。今回の PR、PO、GR、請求書は、そこでいうトランザクションデータを理解する土台になります。
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